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菌と呼ばれる生き物たち ~殺菌、抗菌、除菌、滅菌 その1~

清掃業界でよく見る、殺菌、抗菌、除菌、滅菌。それぞれに違いがあることをご存じでしょうか。
このコラムでは、3回にわたり殺菌をテーマにした小文を掲載します。今回の「その1」は、対象となる「菌」についてのお話です。

「菌」とは何でしょう?

「菌」という漢字は、音読みでは「キン」、訓読みでは「きのこ」「たけ」と読みます。この訓読みからも分かるように、「菌」はもともとキノコを意味していた漢字です。
ヨーロッパでの大航海時代以降、世界各地で数多くの新たな動物・植物が発見されていきましたが、活発に動き回る動物ではなく、葉緑体を持つ植物でもない生物の多くが、菌類という同じ仲間として、植物の一部と見られていました。しかし、その後、菌類についての研究が進むにつれ、植物とは異なる独自の生物群であると考えられるようになり、現在の分子遺伝学的情報からは、植物よりも動物に近い系統であることが分かってきています。

「菌」のあれこれ

真菌類(しんきんるい)

名前に菌が付く生物で、私たちに一番身近な存在であるのは真菌類でしょう。真菌類にはキノコ、酵母、カビなどが属しています。
キノコは毒をもつ種類も多いのですが、食料として昔から利用されてきました。1万3000年前のチリの遺跡から食用キノコが発見されているそうです。現在ではシイタケ、ブナシメジ、エリンギ、ナメコ、エノキダケといったキノコは人工栽培され、いつもスーパーに並んでいます。ヘルシーな食材として人気。お鍋には欠かせませんね。

食用キノコの盛り合わせ

また、酵母はパンづくりやアルコール発酵に利用され、人類の食生活を豊かなものにしてきました。
カビは、梅雨時期に腐った食べ物に生えてくるものとしてあまりいいイメージではないかもしれませんが、ゴルゴンゾーラやカマンベールといった美味しいチーズづくりに欠かせないものですし、日本酒や醤油や味噌づくりに使われている麹(こうじ)もカビの一種です。第二次世界大戦以降、多くの人々を感染症から救った抗生物質ペニシリンもアオカビから発見されたのです。
水虫も白癬菌というカビですが、これにはあまり身近であってほしくはないですね。
 

粘菌類(ねんきんるい)

動いて微生物を捕食し、形を変えてキノコのように子実体を作って胞子をばら撒き、1つの細胞に数多くの細胞核があったりもする不思議な生き物として知られる粘菌。昭和天皇が強い関心を持たれ、博物学、民俗学の先駆者である南方熊楠が、110点もの標本を天皇に献上したことでも有名です。

粘菌類の画像
 

卵菌類(らんきんるい)

19世紀半ばに、アイルランドで起きた大飢饉。大量の餓死者と北米への大規模な移住を生み出しましたが、この原因は、ジャガイモに寄生するジャガイモエキビョウキンという卵菌です。さらにはワイン産地で、ブドウ栽培に大きな被害を与えてきたブドウべと病菌も卵菌。農作物の病原菌となるものばかりが知られている、ある意味かわいそうな生物です。しかも、系統的には全く異なっているにも関わらず、その生活様式が非常に似ていて、ミズカビやツユカビという名前をつけられているために、カビ(真菌類)とカン違いされているのを、ネットの情報ページでもよく見かけます。

卵菌の画像
 

細菌類(さいきんるい)

1828年(日本では江戸時代の文政11年)、ドイツの博物学者クリスチャン・ゴットフリート・エーレンベルクが顕微鏡を使って観察した微細な生物に、ラテン語で「Bacterium(バクテリウム)」と名前をつけました。これはギリシア語で「小さな杖」を意味する言葉から造語したものです。これの複数形がBacteria(バクテリア)。日本では、そのバクテリアを翻訳した際に細菌と呼ばれることになりました。
同じように菌が付いているので、細菌も真菌・粘菌・卵菌と同じようなものと思っている方もいるかもしれませんが、真菌・粘菌・卵菌は、私たちヒトと同じく真核生物と呼ばれる、細胞核を持った生物です(細胞核はDNAがある場所で、核膜という膜で囲まれています)。それに対して、細菌は細胞核を持たない原核生物で、DNAは細胞の中でモヤっと折りたたまれて存在しています。
細胞ひとつひとつも真核生物と比べて非常に小さく、単純な構造の生物なのです。

細菌(大腸菌)の模式図

細菌と人類

細菌は地球上のありとあらゆる環境に存在しています。土壌や湖沼はもちろん、地殻や大気圏、熱水鉱床、水深1万mの深海底、南極の氷床などなど。大気中には1㎥あたり約1億個の細菌が存在しているそうです。
私たちの腸内にも何百万の腸内細菌が常在しており、私たちに身近な存在という意味では真菌類以上かもしれません。これらの腸内細菌は、多くの草食動物にとっては、食物の消化に欠かすことができない存在です。また、乳酸菌や納豆菌は古くから食品の長期保存のために利用されてきました。

発酵食品の数々

近年の遺伝子工学の発展には、モデル生物としての大腸菌が大きな役割を果たしています。また、大腸菌は完全なDNA配列が判明した最初の生物でもあります。

このように有益な細菌もありますし、人類になんら害を及ぼさない細菌が大多数でありますが、細菌は私たちにとって有用なものばかりではありません。食べ物を腐らせてしまうのは、多くは細菌の働きによるものです。腐敗した食品は、食べると食中毒を起こすこともあります。先ほど、乳酸菌や納豆菌が食品の長期保存に利用されてきたと書きましたが、これは、腐敗を起こさせるような細菌が食品上で増加する前に、食べても大丈夫な乳酸菌で食品をいっぱいにして、腐敗を起こす他の細菌の居場所をなくしているのです。
また、一部の細菌は、病原細菌として、ヒトや他の生物の感染症の原因となっています。結核、コレラ、ペスト、赤痢、梅毒、ハンセン病といった永年人類を苦しめてきた病気の数々は細菌の感染によるものです。

人類が殺菌、滅菌の対象としてきたものは、これらの病原性の細菌がメインなのです。

今回は、「菌」についてのお話でした。次回はウイルスがどういうものであるのかについてご紹介いたします。

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