殺・抗・除・滅の違いについて ~殺菌、抗菌、除菌、滅菌 その3~
清掃業界でよく見る、殺菌、抗菌、除菌、滅菌。それぞれに違いがあることをご存じでしょうか。このコラムでは3回にわたって殺菌をテーマにした小文を掲載しています。
今回、最後の「その3」では、殺菌、抗菌、除菌、滅菌のそれぞれの違いについてお伝えいたします。
前回までの記事はこちらから
その1「 菌と呼ばれる生き物たち」
その2「 ウイルスってなに?」
殺菌とは
殺菌は、病原性や有害性を有する細菌などの微生物を殺し減少させることです。
具体的な減らす程度や対象となる菌の種類は決まっていませんが、製品に「殺菌」と表示できるのは、効果が認められた医薬品または医薬部外品だけと、薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)によって定められています。
今では見かけなくなりましたが、昔、どの家庭にも必ずといっていいほど常備されていた赤チンと呼ばれる消毒薬マーキュロクロム液、あれが殺菌剤ですね。赤チンが人気となる前の傷薬の主流で、ヨーチンと呼ばれていたヨードチンキも殺菌剤です。
過酸化水素水もオキシドールという名前の殺菌剤です。イソジンという商品名が有名なポビドンヨードも殺菌剤のひとつです。
抗菌とは
1999年、抗菌加工製品の市場規模が拡大しはじめた時期に、通産省(現・経済産業省)が出した「抗菌加工製品ガイドライン ~新しいルールづくりに向けて~」において、抗菌とは「当該製品の表面における細菌の増殖を抑制すること」と定義されています。
抗菌という言葉自体がその頃新しく使われはじめた言葉で、関係業界団体、法令、専門誌それぞれに「抗菌」の定義が微妙に違っていたようです。そういう状況の中で「製品の表面」「細菌」と限定したところに、「きちんと試験をして効果を確かめなさいよ」という通産省の意図が見えますね。
一般社団法人 抗菌製品技術協議会(SIAA)では、抗菌・防カビ・抗ウイルス加工製品に関する品質や安全性のルールを整備し、ルールに適合した製品にSIAAマークの表示を認めています。
除菌とは
除菌とは「菌やウイルスを取り除いて、その数を減らすこと」。
基本的には、減らす菌やウイルスの数・種類について明確な決まりはありません。減らし方についても決まっているわけではないので、水で手を洗うだけでも、部屋を掃除するだけでも、細菌やウイルスは減ることは減りますので、除菌をしていると言っても間違いではないでしょう。手洗いに関しては、その洗い方で効果がまったく違ってくるという研究結果が出ています。
除菌には明確な決まりはないと書きましたが、洗剤・石けん公正取引協議会では、台所用(スポンジ)と住宅用の洗剤について「除菌」の表示基準を定めており、試験を行って基準をクリアしたもののみが除菌マークを表示できることとなっています。
また、一般社団法人 日本衛生材料工業連合会では、除菌を標榜するウエットワイパー類の自主基準を制定しており、こちらも定められた試験方法で、性能基準を満たしていることを確認しなければならないとなっています。
これら2つの除菌性能基準は、両方とも試験菌種は黄色ブドウ球菌と大腸菌の2菌種。それぞれの菌種で除菌活性値は2以上となっています。この除菌活性値2以上というのは、「除菌効果のない対照資料」と比較して生菌数を1/100以下に減少させるということです。一桁減少させれば除菌活性値1、二桁減少させれば除菌活性値2ということですね。
滅菌とは
滅菌は、医療機関などで使われる言葉です。「被滅菌物の中のすべての微生物を殺滅または除去する行為」を意味しています。医療機器の滅菌については、国際規格や日本産業規格で厳密な基準が設けられています。
病院は、けが人や病人といった身体が弱って免疫力の落ちた人が多いうえに、病原菌やウイルスに感染している人が診断や治療を求めて来る場所です。病原菌を減らすことは最重要な作業です。特に手術の場合、メスや注射器の針といった器具が身体の組織や血管に入っていくわけですから、それらに病原菌が付いていると、病気に感染させようとしているようなもの、感染を防ぐためにはしっかりした滅菌が必要になります。
現実には、完全な排除または死滅を保証することはできませんが、「無菌性保証水準(sterility assurance level:SAL)を10⁻⁶以下(SAL≦10⁻⁶)」の達成が要求されます。これは滅菌操作後、被滅菌物に微生物の生存する確率が100万分の1であることを意味しています。
ウイルスの失活について
『ウイルスってなに? ~殺菌、抗菌、除菌、滅菌 その2~』において、ウイルスは生物ではないので、殺すことはできないと書きましたが、活性を失わせたり、破壊したりはできます。
例えば、コロナウイルスが細胞に感染する際には、エンベロープと呼ばれるコロナウイルスの一番外側を包む膜の、その表面にあるスパイクタンパクが宿主細胞の受容体と結合することで、細胞に付着します。
高濃度のアルコールがウイルス対策に用いられるのは、タンパク質を変性させたり、脂質を溶かしたりできるためです。スパイクタンパクの構造が変わったウイルスは細胞にくっつけなくなりますし、脂質二重膜で構成されているエンベロープはアルコールで溶かされて破壊されてしまいます。
界面活性剤というのは、分子内に油になじみやすい部分(疎水基)と水になじみやすい部分(親水基)の両方を持つ物質です。石けんや洗剤の主成分です。疎水基で油汚れを取り囲み、親水基で水となじむことで、石けんや洗剤は油汚れを落とすのです。
油汚れを落とすように、エンベロープの脂質二重膜を溶かして破壊する作用があります。コロナウイルスといったエンベロープを持つウイルスには効果的です。
最後に
その1、その2でも書いたように、私たちの身の回りには、たくさんの細菌やウイルスが存在していますが、そのほとんどが私たちになんら害をもたらさないものばかり。減らす必要もなければ、減らしてもすぐに他の細菌がそこに入り込んできます。
とはいえ、病院をはじめとして多くの人が集まる場所、多くの人が手を触れるもの、口にするもの、傷口など、細菌やウイルスを減らすべき場所や時、部位というものはあります。
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