最低賃金1,176円時代、清掃コストはどう変わる?2026年度改定の影響を整理

2026年度の地域別最低賃金は、全国加重平均で1,121円から1,176円(+55円/+4.9%)へ改定され、10月から順次発効します。人の時間がそのまま原価になる清掃業務では、この改定がコスト構造に直接影響します。
本記事では、①改定の内容と都道府県ランク別の引き上げ額、②1人あたり・1現場あたりの人件費増加額の試算、③清掃を「委託する側」と「請け負う側」で分かれる影響、④コスト構造を変える打ち手の選択肢を、順を追って整理します。
1. 2026年度の最低賃金はどう変わったのか
2026年度の地域別最低賃金は、全国加重平均で1,121円から1,176円へ、+55円(+4.9%)の引き上げとなりました。中央最低賃金審議会の答申を受けて各都道府県の地方審議会が金額を決定し、10月から順次発効する流れです。
注目したいのは、上げ幅そのものよりも「毎年上がる」ことが前提になった点です。最低賃金はこの5年で約300円上昇しており、前年度は+66円、今年度は+55円。上昇ペースは落ち着いたものの、下がる年はありません。清掃のように人の作業時間がそのまま原価になる業務では、年5%前後の上昇が毎年積み上がっていきます。
2. ランク別の引き上げ額と「目安超え」が起きる理由
引き上げ額の目安は、都道府県を経済実態に応じてA・B・Cの3ランクに分けて示されます。2026年度は地方の底上げを意識し、B・CランクがAランクを上回るやや異例の並びとなりました。

もう一つ押さえておきたいのは、目安どおりに決まらない県があることです。
地方審議会が目安を上乗せするケースが続き、2026年度も17県が目安超えとなりました(例:秋田+59円→1,090円、山口+58円→1,101円、静岡+57円→1,154円)。背景にあるのは近隣県との人材確保競争で、「隣県より低いと応募が来ない」という現場の実感がそのまま金額に反映されています。
📝複数県に現場を持つ企業は、全国平均ではなく県ごとの改定額で影響を試算する必要があります。同じ業務内容でも、県によって人件費の伸び方が変わります。
3. 清掃現場の人件費は年間いくら増えるのか
1日8時間・月20日勤務(月160時間)のスタッフを1名と仮定して、+55円の影響を試算します。

さらに、時給の上昇には社会保険料・残業単価・深夜割増・交通費などが連動するため、実負担はこの試算よりも大きくなります。「時給が55円上がった」ではなく、「固定費が毎年数十万〜数百万円単位で増えていく」と捉えるほうが実態に近い数字になります。
4. 影響は2軸に分かれる — 委託する側/請け負う側
最低賃金の改定は、同じ清掃業務でも立場によって現れ方が違います。

① 清掃を委託している側(施設・店舗運営企業)
- 10月の発効に合わせ、8〜9月に委託先から改定分の値上げ相談が入りやすい時期になります
- 一方で施設側の予算は前年ベースで組まれていることが多く、「同じ金額で同じ品質」が成立しにくくなります
- 交渉の着地点は概ね3つ。①単価アップを受け入れる ②清掃回数・範囲を削る ③作業方法そのものを変える
- ②を選ぶと短期的にはコストが収まりますが、床の状態が落ちて復旧に費用がかかり、結果的にコストが戻ってくるケースもあります
② 清掃を請け負う側(清掃・ビルメンテナンス会社)
- 人件費はそのまま原価です。改定分を転嫁できなければ粗利が直接削られます
- 値上げ交渉が通らない現場は、PL(収支)が静かに悪化します。欠員が出れば管理者や経営層が現場に入る構図にもなりがちです
- 採用面でも、近隣県の底上げによって「募集時給を上げないと応募が集まらない」状況が続いています
- 「品質を守れば契約は続く」という前提が崩れつつあるのが、ここ数年の大きな変化です
5. コスト構造を変える3つの選択肢と判断のポイント
人件費上昇に対して現場が取れる手は、大きく①単価を上げる ②回数・範囲を減らす ③作業方法を変えるの3つです。①は交渉、②は品質とのトレードオフ。③の代表例が、床面清掃の一部を業務用清掃ロボットに置き換える方法です。

押さえておきたいのは、コストの「形」が違うという点です。

賃金が上がるほど相対的な割安感が増える構造で、投資回収の目安は一般に2〜3年とされます。
実際の導入現場では、日常の床面清掃をロボットに移し定期清掃の回数を最適化した小売店舗で月約9万円(年約108万円)のコスト削減、ホテル客室(100室)で1室5分のバキューム作業を置き換え1日約9時間分の作業削減といった事例があります。
⚠️ただし「導入すれば下がる」ものではありません。
床面の自動清掃の達成率は概ね90%前後で、残りは人がフォローする設計が現実的です。成果が出る現場とそうでない現場の差は、機種の性能よりも①ワークスケジュールをロボット前提で組み替えたか、②導入後にPLを検証したかの2点に表れます。この2つを飛ばすと「動いているだけ」で終わりやすい、という点は共通しています。
判断の際は、少なくとも以下を数字で並べてから比較することをおすすめします。
- 対象現場の床面積・作業時間・投入人数
- 改定後の時給で再計算した年間人件費(社会保険料等を含む)
- 置き換え可能な作業の割合と、人が担う残作業の時間
- 導入・運用にかかる費用と、回収までの期間
6. まとめ — 「毎年上がる」を前提にした設計へ
2026年度の最低賃金は全国加重平均1,176円(+55円)。清掃業務では1名あたり年約10.5万円、10名の現場で年約105万円という単位で固定費が増えていきます。しかもこれは単年の話ではなく、毎年繰り返される前提条件です。
単価交渉や回数削減は「その年をしのぐ」対応にはなりますが、上昇が続く限り毎年同じ交渉が必要になります。一方で、作業の設計そのものを見直すアプローチは、初期の手間はかかるものの、賃金上昇の影響を受けにくい構造をつくります。値上げ交渉の時期に入る前に、自社・自現場の数字を一度洗い出しておくことが、もっとも確実な準備になるはずです。
- 記事のまとめ(要点の再確認):
- 2026年度の最低賃金は全国加重平均1,176円(+55円/+4.9%)、10月から順次発効
- ランク別の目安はA+54円/B・C+56円。目安を超えて決定する県もあるため、県単位での確認が必要
- 清掃現場では1名あたり年約10.5万円、10名で年約105万円の増加。社会保険料等を含めると実負担はさらに大きい
- 影響は「委託側=値上げ相談への対応」「受託側=原価上昇による粗利圧縮」の2軸に分かれる
- 打ち手は単価改定・回数見直し・作業方法の変更の3つ。作業設計の見直しは賃金上昇の影響を受けにくい
